福祉施設の「想定外」の備え
2025.12.08

このところ、熊の出没が全国的に話題になっています。ニュースでは、住宅街に現れたり、学校の敷地に侵入したりという報道が続いています。秋の山に食べ物が少ないことが原因だとも言われていますが、何より驚くのは、その「近さ」です。
「まさかこんな所に熊が出るなんて」――これは被害に遭った地域の方々の共通の言葉でしょう。

 私たちが暮らす九州では、かつてから「熊はいない」と言われてきました。実際、ツキノワグマの生息地は本州以北で、九州では絶滅したとされています。だからこそ、「熊対策」という言葉はどこか他人事のように感じてしまいがちです。
しかし、この“他人事”という感覚こそが、危機管理の落とし穴なのかもしれません。

 福祉施設には、常に「守るべき人」がいます。高齢者、障がいのある方、子どもたち――自ら素早く避難することが難しい利用者の命を預かる以上、想定外を想定する姿勢が欠かせません。熊ではなくとも、野犬、ハチ、ヘビ、不審者、あるいは気象災害。自然も社会も、思いがけない形で牙をむくことがあります。

 危機管理というと、つい「起きてから対応する」イメージを持ちがちですが、本当の備えは「起きる前の想像力」にあります。
“熊はいないはずの九州”であっても、「もし、そんなことが起きたら」を考える――それが、地域の安全と福祉を支える私たちの責任だと思います。

 寒さが増すこれからの季節、熊ではなくても、私たちの周囲にはさまざまなリスクが潜んでいます。職員一人ひとりが「想像力の防災」を意識していきたいと思います。