理事長コラム

門司誠一の思いをつづります。

  • 2026.07.24

     今年も「危険な暑さ」という言葉を耳にしない日はありません。かつて夏は「暑い季節」でしたが、今では命を守ることを最優先に考えなければならない季節へと変わりました。気象庁では最高気温30℃以上を「真夏日」、35℃以上を「猛暑日」と呼びますが、猛暑日という言葉が一般に使われるようになったのは比較的新しく、近年の気候変動を象徴する言葉でもあります。今年は厳しい暑さを受けて、40℃以上という極めて危険な暑さを示す言葉として、気象庁が新たに「酷暑日」と言う予報用語を制定しました。近年は真夏日や猛暑日の年間日数が全国的に増加する傾向にあります。

     私が子どもの頃、夏休みは朝の涼しい時間に宿題を済ませるのが当たり前でした。ラジオ体操から帰り、「涼しい午前中のうちに宿題を終わらせなさい」と親に言われたものです。当時は午前中であれば窓から風が入り、扇風機だけでも何とか過ごせました。午後になると川遊びや虫取り、野球に夢中になり、夕方には家路につく。そんな夏の日常がありました。

     スポーツも同じです。私が若い頃のゴルフでは、帽子をかぶらずプレーする人が珍しくありませんでした。炎天下でも背筋を伸ばし、汗を拭きながら18ホールを歩き切ることが美徳のような時代でした。しかし、それは当時の気候だからこそ可能だったのでしょう。今では日本ゴルフ協会も、帽子の着用や日傘の活用、十分な水分・塩分補給を呼びかけています。無帽でのプレーは、もはや根性や礼儀ではなく、熱中症の危険を高める行為になり得ます。

    佐賀県鳥栖市 ブリヂストンカンツリー倶楽部

     一方で、昔から受け継ぎたい知恵もあります。「涼しいうちに仕事を済ませる」という生活の知恵です。早朝の散歩、午前中の買い物、庭仕事、勉強や読書もできるだけ朝に済ませる。体への負担を減らす先人の知恵は、むしろ今こそ見直す価値があります。

     暑さは自然現象ですが、その暑さへの向き合い方は時代とともに変わります。私たちは過去を懐かしむだけではなく、新しい環境に合わせて知恵を更新しなければなりません。一見すると些細な変化ですが、その積み重ねが命を守り、健康を守ります。

     昔を知る世代だからこそ、時代の変化を素直に受け入れる姿勢を若い世代へ伝えていきたいものです。それこそが、本当の意味で経験を未来へ生かすことではないでしょうか。

    佐賀県呼子町 呼子甚六果実店
  • 2026.07.10

     今年も夏季賞与をお渡しする時期を迎えました。

     まずは、日頃より法人の理念を理解し、それぞれの職場で誠実に業務に取り組んでいただいている職員の皆様に、心から感謝申し上げます。

     高齢者施設では、ご利用者一人ひとりの生活を支え、その人らしい人生に寄り添う介護を実践していただいています。ご利用者やご家族から寄せられる「ありがとう」の言葉の背景には、職員の皆様の日々の努力と温かな心遣いがあります。目には見えにくい仕事だからこそ、その積み重ねには大きな価値があります。

     また、保育園では、子どもたちの健やかな成長を願い、安全で安心できる環境づくりに力を尽くしていただいています。子どもたちの笑顔の陰には、保育士をはじめ職員の皆様の細やかな配慮と、保護者との信頼関係を築くための地道な努力があります。未来を担う子どもたちを育む仕事は、社会全体を支える尊い使命であると感じています。

     福祉や保育の仕事は、決して効率や数字だけでは評価できるものではありません。相手を思いやる心、気づく力、寄り添う姿勢が何よりも求められる仕事です。そして、その優しさを毎日変わることなく実践することは、決して容易なことではありません。

     近年は、人材不足や物価高騰、制度改正など、私たちを取り巻く環境は厳しさを増しています。そのような中でも法人が安定した運営を続けられているのは、職員一人ひとりがそれぞれの持ち場で責任を果たし、支え合いながら前向きに歩んでくださっているからにほかなりません。

     今回お渡しする夏季賞与は、そのご尽力に対する感謝の気持ちを形にしたものです。もちろん、皆様の日々のご苦労に十分応えられるものではないかもしれません。しかし、法人として「ありがとう」の思いを精一杯込めてお届けするものです。

     これから本格的な夏を迎えます。暑さによる体調管理がこれまで以上に重要になる季節です。どうか無理をせず、十分な休養を取りながら、ご自身の健康も大切にしてください。職員の皆様が心身ともに健康であることが、ご利用者や子どもたちへのより良い支援につながります。

     これからも「人を大切にする法人」として、職員の皆様が安心して働き、成長できる環境づくりに努めてまいります。

     改めて、日頃のご尽力に深く感謝申し上げます。皆様とともに、地域から信頼され、必要とされる社会福祉法人を築いていけることを心から願っています。

    「ひまわり」が咲き誇る ケアハウス コスモスの園

  • 2026.06.04

     我が国は世界に類を見ない超高齢社会を迎え、高齢者福祉を取り巻く環境は大きく変化している。介護人材の不足、物価高騰による経営圧迫、複雑化する利用者ニーズへの対応など、高齢者施設を運営する社会福祉法人に課せられた責任はますます重くなっている。そのような中で、私たち施設経営者にとって大きな支えとなるのが、公益社団法人 全国老人福祉施設協議会である。

     全国老人福祉施設協議会は、全国の特別養護老人ホームをはじめとする高齢者福祉施設・事業所を会員とし、高齢者福祉の向上と施設運営の発展を目的として活動している。国の介護保険制度や福祉政策が大きく変わるたびに、現場の声を集約し、制度設計に反映させるための提言を行う役割は極めて重要である。

     社会福祉法人の理事長として日々感じるのは、現場と行政をつなぐ存在意義である。介護現場では利用者一人ひとりの尊厳を守るために懸命な努力が続けられているが、その声が直接国に届く機会は限られている。全国老人福祉施設協議会は、都道府県老人福祉施設協議会を通じて全国の会員施設の意見を集約し、介護報酬改定や人材確保策、災害対応などについて政策提言を行っている。現場の実情を踏まえた提言がなければ、持続可能な介護サービスの実現は難しい。

     また、協議会が果たす人材育成の役割も大きい。介護職員のみならず、施設長や管理職を対象とした研修事業は、組織運営やリーダーシップ向上に大きく寄与している。高齢者福祉の質は、人材の質によって左右されると言っても過言ではない。介護技術だけでなく、マネジメント能力や倫理観を備えた人材を育成することは、法人経営の根幹である。

     さらに近年は、ICTや介護ロボットの導入、外国人介護人材の活用、地域包括ケアシステムの推進など、新たな課題への対応が求められている。個々の法人だけでは解決が難しいテーマについて、全国規模で情報共有や先進事例の発信を行う全国老人福祉施設協議会の存在はますます重要になっている。

     一方で、協議会に期待することもある。それは、地域ごとの実情にさらに寄り添った支援である。都市部と地方では人材確保の状況も経営環境も大きく異なる。全国組織としての視点とともに、多様な地域課題を丁寧に吸い上げる取り組みが今後さらに求められるだろう。

     高齢者福祉は、単なるサービス提供ではなく、人々の人生を支える社会基盤である。社会福祉法人は地域に根差し、その使命を果たしていかなければならない。その歩みを支え、全国の施設を結び、未来の高齢者福祉を切り拓く存在として、全国老人福祉施設協議会への期待は今後も大きい。超高齢社会の未来を見据え、現場と政策を結ぶ力強いパートナーとして、さらなる発展を願ってやまない。

  • 2026.05.01

     『遺教経(ゆいきょうぎょう)』は、お釈迦様が八十歳を迎え、入滅を前にして最後に弟子たちへ説かれた教え、いわば御遺言ともいうべき経典であります。二月十五日、その生涯を終えられる直前に示されたこの教えには、人として、また集団の中で生きる者としての在り方が簡潔に、そして深く説かれています。

     遺教経に「知足之人は貧しといえども富めり」とあります。足るを知る者は、たとえ物質的に恵まれない状況にあっても、心は豊かである――この言葉には、人としての生き方の本質が、簡潔に、そして深く示されております。

     現代は、豊かさと利便性を追い求める時代であります。私たちの生活は大きく向上いたしましたが、その一方で、「まだ足りない」と感じる思いに心がとらわれる場面も少なくありません。外側の充実に比して、内面の充足が見えにくくなっているとも言えるのではないでしょうか。

     こうした時代にあって、「知足」の教えは、私たちに大切な視点を与えてくれます。足るを知るとは、決して現状に甘んじることではなく、今ある環境やご縁の尊さに気づき、その中で誠実に務めを果たしていく姿勢であります。

     社会福祉の現場においても、この心の在り方は極めて重要であります。制度や設備の充実はもちろん欠かせませんが、それ以上に、利用者お一人おひとりに対する敬意と、寄り添う気持ちが何より大切であります。限られた条件の中であっても、心を尽くした関わりは、確かな信頼として積み重なっていくものと考えます。「貧にして富む」とは、まさにこのような内面的な豊かさを指しているのでしょう。目に見える豊かさだけでなく、心の充実をいかに育んでいくか、その問いを、私たちは常に大切にしたいものです。

     日々の業務の中でこそ、「足るを知る心」に立ち返りながら、一つひとつの実践を丁寧に積み重ねていく。その姿勢が、組織としての信頼を築き、より良い福祉の実現につながるものと信じております。『知足之人は貧しといえども富めり』という言葉を胸に、これからも心の豊かさを大切にした福祉の実践に努めてまいりたいと存じます。

    臨済宗南禅寺派 徳昌寺(鳥栖市神辺町)
    臨済宗南禅寺派 徳昌寺 本堂