見鞭影而行
2025.12.26
今年も残すところ僅かで、来年は午年となる。年末に菩提寺である臨済宗南禅寺派徳昌寺の浅生憲道ご住職から、田中寛洲南禅寺派管長が書かれた色紙をいただいた。

色紙の裏には「良馬は鞭影を見て行く」という仏陀の言葉があります。優れた馬は、鞭で尻を打たれなくても、鞭の影を見ただけで速度を上げて走るという意味であると書かれている。
この言葉は、単なる動物の比喩ではありません。人の生き方や仕事の姿勢に、驚くほど重なります。たとえば、注意されないと行動できない人と、言われる前に動く人。
問題が起きてから慌てる人と、未然に兆しを読み対処する人。
変化に抵抗する人と、変化の影を見た瞬間、すでに次の一歩を踏み出している人。
その差は、能力の大小ではなく、「気づきの早さ」と「自ら動く心」にあります。現代社会は、誰かに叱られてから改善する、そんな余裕が許されないスピードで動いています。情報は溢れ、技術は変わり、価値観すら刻々と更新されていきます。
だからこそ、人は「鞭を受けて動く」よりも、「影を察して動ける存在」でありたいものです。もちろん、すべてを完璧に予測することはできません。しかし、目の前の出来事に無関心でいないこと、変化を恐れず柔軟に応えること、今より一歩先を見ようと努めること、その姿勢こそが“良馬の心”なのかもしれません。
気づいたときに動く。
できるときに始める。
言われる前に考える。
その小さな習慣の積み重ねが、私たちをより良い未来へ導いてくれます。鞭の“影”を見て走る、それは今を生きる私たちへの静かな力強い教えです。
