理事長コラム
門司誠一の思いをつづります。
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2025.11.18
かつては近所へ出るだけでも上着を着用し、姿勢を正していた時代がありました。身だしなみは、自分を律するための小さな“けじめ”でもあり、同時に地域社会への礼儀でもありました。その行為の中には、「節度をもって暮らす」という生活のリズムが確かに息づいていました。
いま、私たちの暮らしは大きく様変わりしています。普段着のまま外へ出ることが当たり前となり、生活の延長線がそのまま公共空間へ流れ込むようになりました。気軽さは便利さをもたらしますが、一方で“生活感があまりに露骨に外へあふれ出る”光景も増えています。人前であっても平気でスマホに没頭し、道端での飲食や迷惑行為が話題になることもあるなど、節度の輪郭が薄れてきたように見えます。
その背景には、「自分が良ければそれでいい」という空気の広がりがあります。自由や個性の尊重は歓迎すべき流れですが、行き過ぎれば社会全体のけじめが曖昧になります。本来、公共の場とは多くの人が共有する“中間領域”であり、最低限の節度があるからこそ心地よく成り立つ空間です。しかし、個の自由が強調されすぎると、その中間領域の規律が崩れ、互いが気を配る文化が後退してしまいます。
服装の変化は、単なるファッションの問題ではありません。それは社会観の変化そのものであり、「どこまでが自分の領域で、どこからが他者との共有空間なのか」という感覚を表しています。普段着で外出する自由そのものは否定されるべきではありませんが、そこに節度や気遣いが伴うとき、社会はより心地よいものになります。
自由と節度。そのバランスを失わずに暮らせるかどうか――現代の私たちが立っているのは、ちょうどその境界線の上なのかもしれません。
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2025.10.27
秋の澄んだ空に、無数の熱気球が舞い上がる――。
佐賀の風物詩としてすっかり定着した「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」は、まさに“空の祭典”と呼ぶにふさわしいイベントだ。例年10月末から11月初めにかけて、嘉瀬川河川敷を会場に世界各国から100機を超えるバルーンが集結する。朝焼けに照らされながらゆっくりと浮かび上がる姿は、何度見ても心を奪われる。バルーン競技は、単なる観光ショーではなく、れっきとした国際大会でもある。パイロットたちは風を読み、気流を計算しながらターゲットを目指す。ゴールに近づくほどに観客から歓声が上がり、早朝の冷たい空気が一瞬にして熱気に包まれる。競技者たちの真剣な表情と、カラフルな気球が織りなす光景は、スポーツの緊張感と芸術の美しさが同居した独特の魅力を放っている。
日中は地元グルメの屋台や特産品ブースが立ち並び、家族連れで賑わう。夜には「ラ・モンゴルフィエ・ノクチューン」と呼ばれる夜間係留が行われ、ライトアップされたバルーンが音楽に合わせて一斉に輝く。その幻想的な光景は、まるで星空が地上に降りてきたかのようだ。
このフェスタを支えているのは、数多くのボランティアや地域住民の力である。駐車場の整理から会場案内、選手のサポートまで、地域が一丸となってイベントを作り上げている。佐賀の人々の温かさが、訪れる人の心に残るのも納得だ。
「風を味方につける」――それはバルーンだけでなく、地域の未来づくりにも通じる言葉かもしれない。自然と共に生き、地元が一体となって夢を空に描く。佐賀インターナショナルバルーンフェスタは、そんな“地域のチカラ”を感じさせてくれる、日本有数の空の祭典である。
今年の開催期間は、 10月30日(木)~11月3日(月・祝)となっている。ぜひ一度、佐賀の空を見に来てほしい。

2015年の夜間係留 -
2025.10.24
このたびの内閣改造に伴い、佐賀県選出の参議院議員である福岡資麿厚生労働大臣がご退任されることとなりました。まずは、これまで国の福祉行政の最前線でご尽力されてこられたことに、心より感謝と敬意を申し上げます。
福岡大臣は、常に「現場を支える政策とは何か」を問い続けてこられた方でした。大臣としてのご在任期間は決して長いものではありませんでしたが、その間にも、社会保障制度の持続可能性や人材の確保、そして地域包括ケアの推進など、現場の私たちが日々直面する課題に真正面から向き合い、丁寧に耳を傾けてくださいました。
社会福祉の世界は、制度の改革や数値の改善だけでは測りきれないものがあります。困難な現実に直面しながらも、利用者の笑顔や小さな変化を支え続ける現場の力こそが、地域を動かしています。福岡大臣が示された“現場を信じる政治”の姿勢は、私たちがこれからも大切にしていきたい灯です。
福岡大臣の温かいご指導とご尽力に、心より感謝申し上げます。どうかこれからも、その豊かなご経験を通じて、社会福祉の未来を見守り、支えていただければと願っております。 今後は参議院の拉致問題等特別委員会の委員長を務められると伺っておりますので、今後の更なるご活躍を期待しております。
長きにわたるご奮闘、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。
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2025.10.22
――社会福祉法人の経営現場から見た課題と希望―
高市政権が発足し、日本社会は新たな転換期を迎えている。人口減少と超高齢化が進み、地域の力が弱まりつつあるいま、政治がどのように「持続可能な福祉」を構築していくのかは、社会全体の命運を左右する課題である。社会福祉法人の経営に携わる者として、私はこの政権に、理念だけでなく現場の経営実態に即した政策展開を強く期待している。
福祉経営の現場では、まず「人材確保」と「処遇改善」が最大のテーマである。人材は法人の資本そのものだ。採用が難しいだけでなく、離職防止や育成にも長期的な視点が求められる。いま必要なのは、単なる賃上げ政策ではなく、職員が将来設計を描けるようなキャリア構築支援と、地域間・法人間の格差を是正する仕組みだ。福祉人材の確保・育成を国家戦略の一部として位置づけてほしい。
また、社会福祉法人の経営は「公的責任」と「経営合理性」の両立という難題を常に抱えている。限られた介護報酬の中で質を維持しながら経営を成り立たせるためには、効率化と創意工夫が不可欠だ。しかし、現在の制度は報酬体系・補助金制度・監査基準が複雑で、現場は事務負担に追われている。高市政権には、現場を信頼した制度の簡素化、そして成果を「書類」ではなく「利用者の生活の質」で評価する柔軟な仕組みを求めたい。
財政面では、社会保障費の増大が避けて通れない中で、「持続可能性」と「公平性」の両立が問われている。高市氏が掲げる「全世代型社会保障」の理念は評価できるが、その実現には、国・自治体・事業者・国民それぞれが適切に負担を分かち合う構造が必要だ。たとえば、社会福祉法人が地域の公益活動(見守り、防災支援など)を担う際、財源が伴わなければ継続は難しい。補助金や交付金を単発的な事業ではなく、中長期的な地域インフラ整備の投資と位置づけてほしい。
加えて、社会福祉法人が今後の地域経営に果たす役割も大きい。かつては「施設を運営する法人」という認識が強かったが、これからは地域の課題解決に主体的に関わる「地域経営体」へと進化する必要がある。たとえば、医療・介護・子育て・障がい福祉を横断的に連携させ、地域の暮らしを丸ごと支えるような取り組み。そこに政策的な支援と柔軟な規制緩和があれば、法人の持つ人材・ノウハウ・信頼を生かした新しい地域づくりが進むはずだ。
経営の視点で言えば、デジタル化と人の力の調和も鍵を握る。DX(デジタルトランスフォーメーション)はもはや避けて通れないが、導入コストや運用支援なしに現場が対応できるわけではない。ICT化は人件費削減のためでなく、「人が人に向き合う時間を生み出すための投資」として位置づけるべきだ。高市政権が得意とするテクノロジー分野で、福祉DXの基盤整備を進めてほしい。
また、災害・感染症・エネルギー危機といったリスク対策も、経営の重要課題になっている。施設は地域の避難拠点であり、命を守るインフラでもある。国土強靭化を掲げるなら、その中に「福祉・医療・防災の連携強化」を明確に位置づけてほしい。非常用電源や備蓄設備への支援、緊急時の物資・人材供給体制の整備など、具体的な施策を期待する。
社会福祉法人は、民間企業とも行政機関とも異なる立場にある。公共性と自立性を両立させながら、地域社会に密着した経営を続けていくためには、政治の理解と後押しが欠かせない。高市政権には、現場の声を丁寧にすくい上げ、「制度を作る側」と「支える側」が対話できる関係を築いてほしい。
福祉の経営は、数字だけでは測れない「人の幸福」を扱う経営である。だからこそ、効率よりも持続性、成長よりも信頼を大切にしたい。国の政策がその価値観と歩調を合わせるとき、福祉は単なる支出ではなく、社会の未来への「投資」として機能する。
地域を支える現場の努力と、国が描く政策の方向がしっかり噛み合えば、日本の福祉はまだ進化できる。高市政権には、「現場の実感に根ざした政治」をぜひ実現してほしい。それが、真に豊かで温かい国づくりの第一歩になると信じている。

毎年、佐賀市嘉瀬川河川敷で開催される「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」
